欧州製造業の大規模開発に見る
DX成功の秘訣



デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が当たり前になってから久しい。通信やオンラインなどの新しい業態がビジネスやサービスをデジタル化する姿は容易に思い浮かぶが、古くから続く産業や重厚長大な製造業がDXの取り組みに悩むケースは多い。
そこで本稿では、数多くの企業のデジタル化推進を支援してきたDXCテクノロジーとそのパートナーであるマイクロフォーカスのリーダーたちによるインタビューを基に、ヨーロッパの基幹産業である自動車や航空機メーカーにおけるソフトウェア開発の取り組みとDX成功のためのポイントを見て行く。


「産業がソフトウェア化」した世界で明らかになった課題

「あらゆる企業はソフトウェア企業になる」と2011年に予言したマーク アンドリーセン(Netscape Navigatorの開発者)氏の言葉は9年後の現在、本当に現実化したと言えるだろう。いまや世界中の企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、あらゆる領域でソフトウェアの重要性が増している。

自動車のような巨大産業においても、プロダクトの開発設計段階からソフトウェアが欠かせなくなっている。自動運転技術のような自動車の機能をソフトウェアが支えるだけではなく、自動車の開発や試作段階からソフトウェアが活用されて「より早いものづくり」と「質の高いものづくり」が実現されている。

ITプロジェクトと同じように機能が増えるにも関わらず完成までに許される時間は短くなり、初搭載の機能であっても高い品質が市場からは求められる。新機能追加による付加価値の増加、ライバルより短い市場投入までの時間、さらに高い品質が最重要命題であるものづくりを、欧州の著名な製造業はどう取り組んでいるのだろうか。

それらの企業がソフトウェアによって得たのは効率向上だけではなく、自動車や航空機という先進技術の塊であるプロダクトを作る数万人単位の共同作業基盤と、かつてなく高度な管理を実現する仕組みだった。しかしながら国内においてDXを採用し、数万人規模でものづくりに成功した実例はかなり少ないのではないだろうか。彼らは私たちの取り組みと何が違うのか?

本稿ではDXを支える日本のアプリケーション開発の姿を振り返ったうえで、ヨーロッパの自動車開発と航空機開発におけるソフトウェアの貢献の一端とその環境を手軽に利用するための手法について、最前線で顧客を成功に導いているデビッド ランズバーグ氏の見解を紹介、「日本でDXを実現する方法」について識者が解説する。


欧米と比較したALM活用度の違い

ソフトウェア化が進んだ世界では、アプリケーション開発に新たなアプローチが求められる。そこで注目されているのが「ALM(アプリケーション・ライフサイクル・マネジメント)」である。

ALMとはソフトウェア開発と保守を各アプリケーションのライフサイクル、プロセスに合わせて管理を継続する考え方である。業務管理とソフトウェア開発を融合させ、ツールを用いて要件や設計、実装、検証、バグ確認、リリースを管理し、それらの促進と統一化を実現する。

欧米と比べて日本ではALMの考え方が浸透しているとは言い難い。特にALMの一部であるソフトウェアテストの価値が十分に理解されていないと指摘するのは、アプリケーション開発をはじめとした総合的なITサービスを提供するDXCテクノロジー・ジャパンの代表取締役社長 西川 望 氏。

DXCテクノロジー・ジャパン 代表取締役社長 西川 望


「エンタープライズアプリケーション開発では、テストを担当する品質管理部門は開発部門のサポートに位置付けられます。また、作り手が開発時に完璧を目指すことが最も重要であり、テストは“もしも”に備えるものという考え方が主流です」(西川氏)

しかし、もはやその考え方ではソフトウェア化された世界に適応し、顧客の期待に応えられる高品質な製品やサービスを迅速に市場投入することは難しい。

「たとえば、生命保険のプロジェクトです。現在は多様な生命保険が発売されていますが、1つの商品を企画して市場に投入するまでに約半年かかります。その80%の時間がテストに費やされています。さまざまな条件を変えてテストをくり返し、ようやく市場に投入できるのです。同様のことは、国内の他の業種・業界でも起きています」(西川氏)


マイクロフォーカス デビッド ランズバーグ氏 (Head of ADM Customer Success)

一方、ALMの導入が進んでいる欧米では事例や成果が積み上がっているという。DXCテクノロジーのパートナーであり大手顧客を中心にALMのソリューションを提供しているマイクロフォーカスのデビッドランズバーグ氏は次のように説明する。

「私が支援しているグローバル高級自動車メーカーの新車開発では、関係者は約4万人、プロジェクト数は1000を超える規模のプロジェクトで、数十億というテストが実施されます。毎日1000を超えるテストが実施されるわけですが、この複雑なプロジェクトを成功に導くにはビジビリティ(Visibility:可視性)とトレーサビリティ(Traceability:追跡可能性)が不可欠です。たとえば、テストを実施して問題が見つかった場合、プログラムのどこに問題があり、どこを修正したのかなどを世界各国にまたがる関係者が共有して理解し、同じ言語で話ができなければなりません。その共通基盤がALMなのです」(ランズバーグ氏)

同氏は、品質とスピードの両立が要求される開発現場においてビジビリティとトレーサビリティが確保できなければ、スケジュールや予算を大幅にオーバーしてしまうとも指摘。そもそもプロジェクトが成り立たない可能性が高いと言う。

「新車の開発では何台ものプロトタイプを作ってテストを繰り返します。プロトタイプは、1台で100万ユーロ(約1億1000万円)かかるため、その台数を減らすことがスケジュールの短期化とコスト削減に直結しています。このグローバル自動車メーカーはマイクロフォーカスのALMを活用して試作車を作るテストを自動化・効率化したことで、プロトタイプの台数を減らすことに成功しています」(ランズバーグ氏)

同氏は、本自動車メーカーがALMを使った成果の一例として世界初の量産EVである電気自動車の開発期間を4年で終わらせていることも挙げた。ALMを使わないそれまでのガソリンエンジンやディーゼルエンジンを積んだ自動車の開発には平均7年が掛かっていた。


DXCのTesting as a ServiceがDXを加速

アプリケーション開発では、西川氏が語るようにテストをいかに効率化するかが重要なポイントになる。もちろんALMを導入すればテストの自動化や管理は可能だ。ただし、これまで日本ではALM製品を導入し使いこなすにはやや高いハードルがあった。

「従来のALM製品は、価格が高めでツールの習得にも時間がかりました。また、企業によっては、テストを実施する期間が限定されているので、そのためだけにテスト製品を導入するのが難しかった面もあります。そこで、ALM製品のテスト関連の機能を切り出して、必要なリソースとともに、従量課金型で提供するサービスを始めることにしました。それが『DXC Testing as a Service』です」(西川氏)

DXC Testing as a Serviceは、アプリケーション開発におけるテストの自動化とその管理をクラウド上で実行できるサービスだ。ソフトウェアはもちろん、環境構築や運用サービスなど、 テスト実施に必要なあらゆる要素を一本化して提供している。

サービスは月額課金のサブスクリプション型であり、マイクロフォーカスのテストツール群とともに、その扱いに長けた人的リソースも提供されるため、「導入ハードル」を低くすることに成功している。


「DXC Testing as a Serviceを活用することで、グローバル製造業で求められるような緻密で体系化されたテストの仕組みを中小規模の開発にも適用し、管理精度や効率を向上することができます。たとえば、自社の決済の仕組みを外部の多様な決済システムとつなぐために、接続部分だけをテストしたいというような場合でも、DXC Testing as aServiceなら迅速に質の高いテストの適用が可能です」(西川氏)

ランズバーグ氏は「DXC Testing as a Serviceを使うことで、部署単位もしくはプロジェクト単位でテストをすることが容易になります。たとえば、Webサイトやモバイルアプリを担当している部門やチーム単位で活用することで、より早く高品質なWebサイトやアプリを開発可能になります」と導入メリットを語る。

DXCテクノロジーは単にテスト環境を提供するだけでなく、使い方のトレーニングやテストの自動化に必要なスクリプト作成などの活用支援も実施している。また、DXC Testing as a Serviceをきっかけとして、本格的なALM導入を相談することも可能だ。

こうした手厚い支援が用意されていることも、ALMおよびテストツールの経験が少ない企業にとっては魅力的だろう。


デジタル化後の競争力とは

欧米ではALM製品はすでに広く認知され、プロダクトやサービスの開発に不可欠な存在となっている。多くの企業がALMを導入するメリットを理解しているからだ。ランズバーグ氏はさらにヨーロッパの航空機メーカーによる戦闘機開発の事例を挙げている。

当航空機メーカーは厳しい規制に縛られ、機材のメンテナンスまで含めたプロジェクトの期間が40~50年にも及ぶ次世代戦闘機の開発にマイクロフォーカスのALMを活用している企業である。複数国からプロジェクトに参加する多数の開発関係者は次世代戦闘機の開発でALMを活用し、ソフトウェアテストの情報を一元管理してスケジュール通りの開発に成功しているという。

次世代戦闘機の開発に複雑かつ高度な要件が求められることは想像に難くない。ALMはエンジニアリングチームと開発チームのコラボレーションを強化する基盤の役割だけではなく、開発におけるコンプライアンス実現にも大きく貢献した。

同社はこれまでテスト結果はExcelとWord文書にまとめていた。しかしながらこの方法ではテスト結果と要件を結びつけることが困難なだけでなく、両者の照合に時間がかかるため非効率的だった。

ALMの導入後はALMがテスト手順、レポート、結果、コンプライアンスレコードのWord文書を自動的に生成する事によってプロセスの堅牢性が実証され、信頼性と安心も高まってスムーズなコンプライアンス実現を確立できているという。

冒頭に述べたマーク・アンドリーセンの予言は現在も進行中で今後もソフトウェアはさらに世界を飲み込み続け、製品やサービスの開発においてソフトウェアが占める割合がさらに大きくなると、必然的にテストの重要性はさらに高まる。

「現在、多くの企業がDXに取り組んでいますが、いずれはこれらの企業がDXをやり遂げ、デジタル化は当たり前になります。そのとき、企業の競争力はどこから生まれるでしょうか。答えは『テスト』です。アプリケーションのテストを効率的に実行できる企業だけが、顧客のより高い期待に、よりスピーディに、より高品質で応えることができます」(西川氏)

そこで重要となるのがALMでありテストだと言える。今後さらにDXCテクノロジーが提供するDXC Testing as a Serviceは、その存在感を増していくことになるだろう。