自動車開発の適合業務における知見・経験を記録 - 共有 - 活用する
自動車の電子制御を担うElectronic Control Unit(ECU)。ECUに書き込む「HEXファイル」の完成には、エンジンであれば「燃料噴出タイミング」や「点火プラグの点火タイミング」、モータであれば「要求トルク」など、制御するためのパラメータ(定数)を調整する必要があります。近年の自動車は、電子制御の大規模化・複雑化とともに、多くの車載デバイスが協調して動作する必要があるため、調整すべき定数の数は更に増え、また、定数間の依存関係も更に複雑になりつつあります。
DXC HEX Management Service-Validator(DXC HMS-V)は、定数の値が満たすべき様々な条件をわかりやすく定義し、検証を自動化することで、HEXファイルの品質確保を支援する最新のツールです。日本の完成車メーカ様の要望にいち早く対応し、自動車業界で注目を集めているASAM CERP標準(後述)に日本で初めて準拠したパッケージ・ツールです。
適合業務(HEXの定数決定)の主な課題
近年、自動車一台に搭載されるECUは100以上、一台の車の制御に必要な定数は現在200,000以上あるとも言われています。加えて、出荷先国や環境規制、オプションに応じた派生のモデルも考えると、更に多くのバリエーションがあります。結果、HEXファイルを完成するために実験を繰り返し、定数を同定する適合業務は、現場にとって大変な負荷となっています。担当するエンジニアからは悲鳴も聞こえています。
HEXの定数値が満たすべき条件は、各社独自のチェックリストや内製ツールで検証してきました。しかし、一貫性のある書式ではないため、広く社内で再利用することができませんでした。また、業界共通の仕組みではないため、デバイスのサプライヤーなど社外と共有することもできませんでした。
DXCテクノロジー・ジャパンのアプローチ
DXCでは、HEX定数の条件を記述する際に一貫性を保つことのできる業界標準ASAM MCD-2 CERP(Calibration Expert System Rule and Product Format)に、日本で初めて準拠したツール「DXC HMS-V」を開発しました。CERPに関する完成車メーカ様等による調査グループからの切なる声を伺い、DXCテクノロジー・ジャパンのこれまでの経験をもとに対応したツールです。
DXC HMS-Vが実現すること
CERPは、現場利用者が直に記述するには、極めて難しい書式です。これは、将来の自動化を見据えて、人間ではなくシステムによる読み書きが想定されているためです。DXC HMS-Vでは、わかりやすい書き方で任意の条件を記述し、CERP書式に変換して記録 - 共有 - 活用していくことができます。
また、CERP標準に対し、日本の完成車メーカ様からは、日本の開発業務に即した拡張要求も出されています。DXC HMS-Vは、こうした声にいち早く対応し、日本独自の要望に応えました。
更に、CERP標準の範囲を超えて、現場では必須となるHEXの比較といった、現場エンジニアを助ける「お役立ち機能」も併せて開発しました。
DXC HMS-Vの特徴
- わかりやすい文法で、定数の検証条件をお客さま独自で自由に記述できます。
記述した検証条件は、CERP書式に変換し保存/実行することが可能です。(※1) - 派生(仕向け・グレード違いなど)モデルに対して、Feature List(CERPの標準仕様の一つ)を用いて、検証の実施条件をダイナミックに変更することができます。これにより、条件式は一つでも、派生条件を広くカバーすることができます。
- グラフィカルユーザインターフェースだけでなくAPIライブラリとしてもご提供することができます。お客様が使っているツールに組み込んでHEX検証処理を実行できます。
- 検証結果を、直感的にわかりやすいレポートで確認できます。
レポート確認には、特別なインストールは不要で、ブラウザ(※2)だけあれば閲覧可能です。
検証の中間評価も含めて、評価の根拠を詳しく見ることができます。 - 問題が検出された定数を、直接M&Cツール側で閲覧し、効率的に修正や確認をすることができます。(検証レポートで注目したい定数のみをアクティブにしてM&Cツールのリンクと連携するためのI/Fを準備しています。)(※3)
- 条件の定義とは別に、HEX同士の差分比較を行うことができます。2つ以上のHEX/CDFファイルの、定数ごとの差分を検出しレポートを作ることができます。(※4)
- DXC HMSと組み合わせることで、HEXファイル自体の管理と検証を一元的/効率的に行うことができます。
HMS-Vの画面例
ルール定義に利用できる検証条件式の例
分類 | 条件例 |
---|---|
定数の参照と評価 | ・HEX内の他の定数の参照(IDの指定) ・軸値の参照 ・一致評価 : 定数同士 (完全一致、軸が異なっている場合の補間対応) , 定数と値 ・大小評価 : 定数同士 (軸が異なっている場合の補間対応) , 定数と値 ・定数の存在確認 ・要素値の範囲評価 |
定数の要素値の参照と抽出 | ・インデックスを指定した要素値の参照 ・軸値からの要素値の引き当て ( 補間対応 ) ・最大値/最小値の抽出 ・最後の要素の参照 ・特定の列/行の複数要素の抽出 ・直近の軸値の参照 (Upper, Lower) |
ユーザー定義定数 | ・任意に定義したユーザー定義定数の作成 ・ユーザー定義定数を利用した評価式の記述 |
演算 | ・四則演算(+, -, * , / )、剰余算 (%) ・ビットマスク演算 ( & , | , ^) ・ビットシフト演算 ( >>, << ) |
条件式 | ・条件分岐 ( if / else ) ・AND / OR / NOT |
高度な評価 | ・要素値の単調増加の判定 ・最大偏差の取得 ・Feature Listに定義した値の参照と評価への利用 |
※1 : CERP/OTX仕様のうち、日本の完成車メーカ様がHEX検証で必要とする部分に優先的に対応しました。また、変換されたCERP書式で簡易検証式と同意の検証は行えますが、CERP標準書式にない、DXC独自の補足情報などは変換されません。
※2 : Chrome, Firefox, Edge(Chromium)等のモダンブラウザが必要です。
※3 : リンクを実現するには、M&Cツール側で、起動引数によるデータ/定数指定への対応が必要です。
※4 : HEX比較は、CERP標準ではなく、DXCテクノロジー・ジャパンにて加えたHMS-Vの機能です。
DXC HEX Management Serviceについてはこちらをご覧ください。
DXCテクノロジーはASAM (Association for Standardization of Automation and Measuring Systems: 自動化システムと測定システムの国際標準化団体)のメンバーとして、HMS標準規格策定に参加しています。
メンバープロフィール:DXC Technology Japan(英語)